作・演出 沢則行さんによるフィギュアアート×能舞台
《OKHOTSK 〜終わりの楽園》を観ました。
フィギュアシアターは
人形劇の本拠地チェコで生まれた演出方法。
多くの日本人が幼い頃から慣れ親しんできた人形劇では
人間は黒子としてしか存在しないのですが、
フィギュアシアターでは人形と人形劇師が同じ舞台に立ち、
時には人間が演技をしたり
人形の心情を代弁する動きをするのです。
もうだいぶ前になりますが
東京で初めて沢さんの舞台を観た時、
その自由で大人っぽく洒落た舞台に驚かされたものです。
今回観た演目は故郷・北海道のために書き下ろした作品で、
遠い昔北海道にいたと伝えられる《オホーツク人》の哀しい物語です。
フィギュアシアターを能舞台で、という斬新な試みは
意外なほどしっくりくるものでした。
オホーツクの荒涼とした海原の映像や
冷たい海風がこちら側に流れてくる様子が脳内に浮かび、
狩猟や戦の雄々しさや人を恋しく思う気持ちが
ダイレクトに伝わってきました。
そしてコレギウム サッポロによるバロック音楽の演奏曲も
不思議な郷愁と悲しみを誘うものでした。
人形劇師の沢さんはチェコを拠点として世界中で活躍されており、
国際的な賞もたくさん受賞されています。
そして人形劇の勉強のため1991年に渡仏されるまでは
私の高校の美術の先生であった方です。
私はあまり勉強はしない高校生でしたが、
教科書には載っていないようなユニークな課題を出し
それを好きなようにやらせてくれ、
大げさなまでに高く評価してくれた先生の美術の時間は
とても楽しかったのを覚えています。
学生時代にムーミンの線描画に憧れ
フィンランドを貧乏旅行した時の話や
その頃作っていた人形を見せてくれた時のこと、
舞台を観ながらいろいろな記憶が蘇りました。
先生の人形は、私が今まで見たことのある
可愛らしい人形とは全く違っていて、
美しいのだけどどこか怖くて魂が込められているものに感じました。
ただかわいくて綺麗なものにはあまり魅力を感じなくなり、
毒や哀しみのようなものが裏に潜む作品に惹かれるようになったのは
先生の人形がきっかけかもしれません。
チェコに住まわれても時々日本に帰ってきて
こうして素晴らしい新作を生み出し感動させてくれる沢先生の
「創造への情熱」に触れることができ
私も好きなことは長く長く続けていこうと
とても勇気づけられました。