今回の旅行のもうひとつの大事なイベントは
清澄白河にある東京都現代美術館で
「ミナペルホネン 皆川明 つづく展」を観ることでした。
ファッションブランド、ミナペルホネン。
デザイナーの皆川明さんの活動はファッションだけでなく
食器やインテリアなど生活全般へと広がり、
国内外のクリエイターと協同事業をするなど
現在では創造的なデザインやアイデアを社会に提供するブランドとして
幅広い活動を展開しています。
展覧会ではそれらの活動のすべてを紹介するだけでなく
どうやってそのモノたちが生まれ、
どんな工程で作られているのか。
「種、芽、風、根、森、土、空、実」の
8つに分けられた部屋を自由に行き来しながら
原画、映像、印刷物などを見ることで
それが理解できるような仕組みになっていました。
さらにはすべてを見終わったとき
ブランドの哲学が浮き彫りになっているという
素晴らしい構成でした。
ポスターのデザインは
私が日本で最も好きなグラフィックデザイナー葛西薫さんが、
空間構成とデザインは建築家の田根剛さんが担当されました。
ポスターは最高に葛西さんらしい透明感と粋を感じるデザインだし、
8つの部屋はどれも違う雰囲気で
ミナらしいワクワクや新鮮な驚きを感じさせる空間でした。
ここは、ブランド設立の1995年から2001年春夏コレクションまでの
25年分の洋服の中から約400着が展示された
「洋服の森」の部屋。
本当に見応えがあり、初めてミナの洋服を見るという方はもちろん、
誰もがその迫力に驚いているようでした。
そして私には、洋服たちが宝石のように輝いて見え、
宝物がぐるり360度、
まるで樹木のように繁るその贅沢な光景に鳥肌が立ちました。
詩情豊かな色とりどりの洋服たちが私を迎え、
口々に話しかけてくるかのように感じたくらいです。
ああ、このブラウスを着て家族とあの街を旅したな、
あのコートは息子が生まれた記念に買ってもらったもの、
このワンピースで悲しいお別れの式に参列したんだっけな、と
森の中に自分の大切な一着を見つけては
その洋服たちとの対話に胸が熱くなり、
涙が出てきてしまいました。
長く愛してきた洋服にはその人の過ごしてきた日々の
大切な感情の記憶が刻まれているのだと思います。
私にとってミナの洋服とは。
身につけると気持ちが高揚し、
素敵な場所や人に会える気がする洋服です。
そして勇気や元気や優しさをくれる、
お守りのような存在。
「芽」の部屋では、20年以上経っても
何ら問題なく着られる洋服づくりの秘密が大公開されていました。
秘密のひとつがこのテキスタイルへの「指示書」。
ミナと工場が何度もやり取りしている様子が
この指示書から見て取れました。
その細かさには驚くばかり。
実際ミナの服は長年着続けていても
ボタンひとつ取れてしまうことすら滅多にないし、
デニムや椅子などは生地が擦れてきた時に下から違う柄や色の生地が出てきて
使う人それぞれの味が出てきたりと
長く使うことを前提に丁寧に作られています。
それにもし金具が壊れたり生地を誤って破いてしまっても
どんなに昔の服でもお直ししてくれるので
愛着が増し、いつまでも大切に
ヴィンテージのように使い続けることができるのです。
ブランドに関わってきた全ての社員の皆さんの努力と情熱。
日本の優秀な職人さんたちの高い技術。
そしてそれを着る人たち。
ミナペルホネン は全員の想いが同じ方向を向いている
稀有なブランドであると思います。
デザイナー、皆川明さんがブランド設立時に掲げた
「100年つづくブランドに」という理念は
決して夢物語では終わらないでしょう。
必ず100年つづく、と確信しました。