宝物のような絵本に出会いました。
《夜の木》
シャーム/バーイー/ウルヴェーティ作
青木恵都訳
セキユリヲ 日本語版文字デザイン
(タムラ堂出版)
表紙も中も真っ黒な紙でできた大きなこの絵本は、
南インド・チェンナイの小さな工房からやってきました。
驚くことに《夜の木》は
手漉きで紙を作るところから始められ、
一枚一枚をシルクスクリーン製法でプリントし、
製本は手かがり、という全てがハンドメイドの品。
生ぬるい風が吹く南インドの工房で働く人たちの
ゆったりとした動きや
(いや、キビキビしていたら申し訳ないけど)
チャイを飲んで休む光景までが透けて見えてくるような、
恐ろしく手間と時間がかかった絵本です。
インドには、日本にはない珍しい木がたくさん生えていて
その一本一本に精霊が宿っていると言われています。
《夜の木》では それらの木が持つ意味を教えてくれたり、
中央インド・ゴンド民族の昔話や神話を元にした、
木にまつわる不思議な物語をつぎつぎ紹介してくれます。
日本でも知られる菩提樹は想像主のすみか。
鮮やかなオレンジと黄色で表現された菩提樹のページが特に好きで、
木の絵を手で撫でてしまいます。
シルクスクリーンならではのインクの匂いと
盛り上がった紙の質感の気持ちよさも
愛着が湧く所以でしょう。
赤と青の対になった木は、
愛し合いながらも結ばれなかった男女の
生まれ変わり。
彼らの永遠の美しい愛にうたれた想像の神シャンカル神は、
その木に ガーンジャー(大麻)とマファ(酒)と
名をつけました。
狂おしいまでの想いと
うっとりするほどの酔いが結ばれたということ…。
うわ、もうキュンキュンきます。
昨年、森の中の立派などんぐりの木の下で
ヨガをしたことがあったのですが、
とても大きな物に包まれているような安心感があり
今でも時々あの日のことを思い出しては
幸せな気持ちになります。
それはこの《夜の木》の世界を味わう感覚と
全く同じだと気づきました。
守られているような
胸にあたたかい火が灯るような感覚なのです。
版元のインド・ターラーブックスと掛け合い、
日本語版を出版するまで奔走した、
吉祥寺の小さな出版社《タムラ堂》さんに
感謝です。
世の中つぎつぎと新刊が出版されて
気になる本はいっぱいあるけれど、
どうしても読む数も限られるし
これは!という本に出会うことは稀です。
ハルキの新作よりも こちらが気になって買いました。
《想像ラジオ》 いとうせいこう作
(河出書房新社)
何と言ってもタイトルが最高。
果たして中身は…?
今夜からのお楽しみです。
5/16発表の三島由紀夫賞にノミネートされているようです。