映画『風立ちぬ』から受け取ったメッセージは
とてもシンプルだけど大切なこと。
堀辰雄の訳したポールヴァレリーの詩
〈風立ちぬ、いざ生きめやも。〉から
のメッセージです。
この映画には 宮崎駿監督が いま伝えたい事や
監督が好きな物、美しいと思う物や人がいっぱい登場しており、
まるで遺言のような映画だと感じました。
堀越二郎。飛行機の設計技師として
1930年代に活躍した実在の人物が主人公です。
これは 彼の、飛行機にかけた並々ならぬ情熱と夢、
恋や別れなどを描いた青春映画と言っていいでしょう。
ただ、美しく飛行する機体を作りたいという思いで
日々努力し、夢に向かってまっすぐに突き進む二郎の姿は、
技術者、職人としてのストイックさに溢れていて
惚れ惚れします。
大正から昭和の日本は貧困や大震災、病気、
そして世界大戦と激動の時代を駆け抜ける中、
二郎が完成させた、航空史に残る最も美しい飛行機=いわゆるゼロ戦は
戦地へと旅立って一機も戻ってこなかったという
悲しすぎる事実にもさりげなく触れます。
でも物語の主軸はそこにはありません。
(時代背景を知らない子どもにとっては、
理解するのが難しい映画と言われているのはそこでしょうか。)
一緒に観た息子には、その部分を解説する必要がありました。
そして今回もジブリ映画らしい
日本の豊かな自然の描写が圧倒的に素晴らしく、
いつまでも浸っていたい程でした。
風に流れてゆく大きな雲、突風に揺れる森の樹々、
風に荒れ狂う火の粉、男たちが燻らすたばこの煙…
随所に風を感じさせるシーンがあり、また人間の声を使った効果音が
まるで宮沢賢治の世界のように幻想的な雰囲気を醸し出すのが心地よくて
身体で『感じる』映画でもありました。
とにかく自分の周りに
ずっとずっと風が吹いているような感覚があるのです。
そして、二郎の作った飛行機は多くの人間を殺すという不幸を生んだし
巡り合えた恋人は不治の病で亡くなってしまう。
確かにストーリーは残酷で辛いものなのですが、
どんなに大きな風が自分に吹いてこようとそれでも生きていかなければならない、
という強い思いが込められています。
ユーミンの『ひこうき雲』の歌詞とこの映画の持つ世界観が重なり
静かな感動が押し寄せてくるラストシーンも、
本当に素晴らしかったです。
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8/26(月)NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で
〈宮崎駿・風立ちぬ1000日の記録〉と題したドキュメンタリーが放送されるそう。
頭の中はまるっきり少年で、
だけど大昔の哲学者のようにも見える不思議な宮崎駿さん。
彼のドキュメンタリー(73分の特別編)絶対見逃したくないな!